天后宮を左に見ながら中山路をすすむ。
中山路はこの街の中央通りである。
台湾や中国の街にはどこへ行っても、中山路とか中正路がある。
孫文を記念しているのだろう。
今日は休日らしく、街が閑散としている。
それでも屋台で買い食いをしながら、旅の楽しさを満喫している。
ちょっとエキゾチックで、この街へ来たのは大正解だった。
中山路と民権路の交差点を、右に曲がる。
そこから50メートルも行かないうちに、鹿港古蹟保存区である。
1800年頃の建物が数百棟も密集して建っており、それがさまざまにリフォームされて使われている。
我々観光客が好む路地がきちんと整備されて、古い民家が並んでいる。
その両側には土産物を並べる店もある。
古着を売る店かと思って、中庭を覗いたら洗濯物だった。
といった失敗も楽しい街である。
1軒の土産物屋には、いくつか壁掛け時計がならんでおり、そのうちの1つをとても気に入った。
持っていくにはちょっと大きいので、日本まで送ってくれるかと聞くと、梱包はするけど郵送は自分でやってくれと言う返事。
残念ながら見送ることにする。
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釈迦頭 |
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しかし、しかし、これは後悔した。
すぐ近所に郵便局があったのだ。
梱包した物を郵便局に持ちこめば良いだけだったのだ。
気に入っていただけに、今考えても残念至極である。
それにしても、英語の話せない店員さんだったが、そこは漢字圏である。
筆談でほとんど通じるのだ。
意志が通じるのは、ありがたいことである。
鹿港古蹟保存区から芸術村にまわるが、あいにく休館日らしく閉まっている。
ぼちぼち昼時である。
どこにしようかと彷徨っているうちに、郵便局の前の定食屋が目に入ってきた。
おかずを何品かとって、ご飯と一緒にテーブルで食べる典型的な定食屋である。
テイクアウトもでき、すこぶる庶民的な店で、ちょっと衛生面では問題がありそう。
中では5〜6人のお客が食べている。
先人がいれば大丈夫だろう。
我々も入ってみる。
各自さまざまにおかずを頼み、テーブルに座った。
すると店の人が運んでくれるのだ。
ビールはないか? と聞くと、きっぱりとメイヨーという返事が返ってきた。
定食屋にはビールはないのかと諦める。
お互いにおかずをつつきあう。
食後のデザートには、近くで買った釈迦頭を食べる。
よく熟れていたので美味い。
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鹿港古蹟保存区から裏の路地をみた芸術的風景 |
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定食屋ではトイレを借りる。チーソーは中国本土で覚えた言葉だが、ここでも通じた。
調理場の裏にあるトイレに案内してくれた。
水洗にはなっているが、紙は流さずに便器のとなりの籠に入れる。
言葉の判らない外国人が、5人も来て定食屋は大変だったろう。
でもお店の人も嬉しそうに笑っていたから、楽しい体験ができたに違いない。
無事に食事もすんで、また街にくりだす。
交差点をわたるとすぐそこには、はるかに清潔な定食屋があった。
こっちにすれば良かったと後悔するが、後の祭りである。
ポチポチと街を歩く。
この街にはお寺が多い。
大きなお寺だけではなく、普通の住宅と変わらないくらいの小さなお寺が、街のあちこちにある。
しかも、どこのお寺も線香の煙が絶えないのだ。
なかなか良い雰囲気。
九曲と書かれた道案内がある。
普通の路地は真っ直ぐなものだが、この路地は曲がって曲がっているから、九曲なのだそうだ。
海風を防ぐために路地を曲げたとあるが、ヒューマン・スケールというか何だかほのぼのとする。
いくつも曲がってはいるが普通の路地だから、両側には民家が建ちならんでいるのだけれど、観光客に開放しているらしい。
もともとこのあたりの民家の造りは、路地に面して大きな開口部を設けていないので、室内が覗かれることはないようだ。
しかし、こんな路地を観光客に開放したら、プライバシーがなくなると心配するのは、ボクだけなのだろうか。
見て回るほうは面白いけど、住んでいる人たちは困らないのかと考えながら、写真を撮っているボクなのだ。
九曲を曲がり終わると、鹿港国民小学校の前を通る。
鳳山寺をへて龍山寺にむかう。
鳳山寺も龍山寺も天后宮とちがって、ほとんど参詣者がいない。
静かな前庭、中庭である。
ここで初めて西洋からの観光客たちにであった。
西洋人とだと互いにニコッと笑うのに、日本人同士だと黙ったままである。
どうも変な感じである。
本堂の裏には、また小さな庭が造られており、池があって鯉が泳いでいた。
その隣には、ばかにきれいなトイレがあって、その立派さに不思議な感じがした。
精緻な装飾や細工を持つこのお寺も、日の字型の構えを持ち、外部に対して塀をめぐらしている。
このあたりの建物は、普通の住宅も塀をめぐらした中庭型が多い。
日本のような開放的な造りではなく、むしろ地中海型の感じがする。
龍山寺の脇にあるお菓子屋さんに入る。
お菓子屋といっても、観光ガイドに載っているくらいだから、おそらく有名な店なのだろう。
しかし、お客は我々だけ。
試食をしまくって、お土産用にいくつか買った。
途中で、地元の親子連れが来店して、お菓子を買っていたが、それでも長閑な風景である。
突然現れた日本人観光客に、嬉しい悲鳴を上げたかな?
鹿港は小さな街で、歩いて巡るのには、ちょうど良い大きさである。
観光客への道案内も、あちこちに整備されて歩きやすい。
言葉は通じないが、地図を見せれば、たいていの人が親切に教えてくれる。
ということで、次は模乳巷にむかう。
これが妙な場所で、こんなものが名所になるのかと驚く。
100メートルくらいの、ただ狭い通路なのだ。
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模乳巷の入り口から |
両側に家の外壁がせまり、50センチくらいの細い路地。
すれ違いは出来ない。
それだけ。
それが模乳巷という観光ポイントなのだ。
なぜこんな狭い通路が出来たのかも不思議だが、これが観光スポットになるのも不思議である。
とか言いながら、何だこれはと驚いて通過する。
途中では、壊れた坪庭みたいなのが覗ける。
反対側の入り口には、お店が隣接しているという普通さ。
誰言うとなく、コーヒーが飲みたくなった。
この街では喫茶店はあっても、コーヒーではなくジュースを飲ませる店が多い。
さすがのスタバもこの街までは進出していない。
中山路にコーヒーを飲ませる店があったと思いだした。
そこで、街の中心地へと戻ることにする。
民権路から中山路へと曲がる。
すると5分くらい歩いたところに、コーヒー屋があった。
サイフォンが並び、いかにも入れたてコーヒーを飲ませるといった風情。
受付のカウンターはあるけど、店内に椅子・テーブルがない。
歩道上にたった1つテーブルがあるきりだった。
いやいや、これでもOK。
しかし、メニューがすべて漢字なのだ。
コーヒーだけのようだが、何があるのだか判らない。
値段はみな同じ40元である。すると珍しいことに店主が英語を話した。
いわくブルー・マウンテン…。
それそれとばかりに、ブルー・マウンテンを5つ注文する。
承知したと、店主は豆を挽いて、コーヒーを入れ始める。
我々はテーブルに座って待つ。
ちょっと風が冷たい。
待てよ、ストレートじゃないだろう。
ひょっとすると、ミルクと砂糖を山盛り入れるような予感がした。
ノー シュガーと確認する。
任せておけ、OKという返事。
やれやれと座っていると、紙コップにでてきたコーヒーには、たっぷりとミルクが入っていた。
日本でも昔はコーヒーにミルクや砂糖をたくさん入れて飲んだ。
ストレートのコーヒーなんて、苦いだけでどこが美味しいのかと言われたものだ。
今でこそストレートで飲むが、ちょっと前までは甘いことが美味だったのだ。
台中の食事は全体に甘味が強いが、あと30年もすると、ストレート・コーヒーも普通に普及するだろう。
牡蛎を食べたかったのだが、どうも雰囲気ではない。
まあいいやで、台中に戻ることにする。
バス停を聞くと、中山路と民権路の交差点を左に行ったところにあるという。
コーヒーを飲んだので、ぐっとリフレッシュして歩き出す。
すると交差点から100メートルも行かないうちに、バス発着所があった。
来たときに乗ったバスは路線バスだったが、ここのバスは高速道路を通る直通バスである。
切符を買って、待合室に座る。
15分ほど待つと、マイクロ・バスがやってきた。
運転手は切符売り場のカウンターで、カップラーメンをすすっている。
マイクロ・バスを指さすと、ラーメンを食べながら黙ってうなずくので乗り込む。
ラーメンを食べ終わった運転手が運転台に座ると、バスは発車した。
街内で2・3ヶ所停まっただけで、高速道路にのって台中へと向かった。
直行便だけあって、1時間もしないうちに台中駅に着いた。
ホテルへと戻る。さて、今夜の夕食である。
夕べはイマイチ充実しなかったので、ホテルで食事処を聞いてみた。
あなたがボーイフレンドと行くとしたらどこが良い? という質問に、返ってきた応えは、台灣香蕉新樂園だった。
じゃあ、そこにしようと、勇んでホテルを出る。
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台灣香蕉新樂園の店内 |
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夕べの夜市の先である。
ちょっとあるけど、歩いてもいけそうだ。
台中技術学院の前を通る。
大きな大学らしく、若者たちがあふれかえっている。
この街には自転車が少ない。
歩道にはスクーターがびっしりと駐車している。
すでに辺りは真っ暗。大勢の人の間をかき分けて進む。
広い通りの両側には、煌びやかなビルが建ちならび、いかにもの繁華街である。
ガソリン・スタンドのある五差路を右に曲がる。
しかし、実はここで道を間違えたのだ。
五差路を斜め右に行くのが正解だった。
孔子廟の前まで出てしまい、ここを左に曲がる。
ちょっと遠回りをしてしまったけど、無事に目的地に到着した。
台灣香蕉新樂園の前には、古い電車が停まっており、店内は横浜のラーメン博物館みたい。
丸い中華テーブルだが、中央に回転する小テーブルはない。
料理を頼んで、もちろんビールも忘れない。
料理もビールも出てきたけど、周りの人はビールを飲んでいない。
どうも台中の人は、食事時にビールを飲まないらしい。
しかし、ビールのコップが可愛いという声があり、お土産に持って帰りたいという。
お店の人はこれは売り物ではないというが、会計の時に交渉して6ヶを120元で買った。
ビールの時間は終わったので、真面目な台中人の前で、紹興酒など頼んでしまった。
さすがに紹興酒はあったが、いつもはあまり注文がないようだ。
何だか奥の奥から出してきたような感じ。
他のテーブルを見ると、お酒を飲んでいるのが1卓あった。
やっぱり台中人もお酒を飲むんじゃん、と安堵する。
しかし、しかし、そのテーブルの人たちとトイレですれ違ったら、日本語を話していたと仲間の報告があった。
全員がのけぞってしまった。
食事の味はイマイチ。
今夜までホテルの予約はとってあるが、明日の晩はどうしようと、ホテルに戻って鳩首閣議である。
高雄や台南に行く案もあったが、ホテルの移動が面倒だという意見が多数。
そこで、もう一泊このホテルに泊まることにした。
そして翌日は、建国市場に行きたい、で決定。
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