去年の韓国旅行が楽しかったので、またどこかへ行こうという。
去年の忘年会で、海外旅行の話がでた。
老人たちの気ままな旅だし、近場にしようと言うことから、香港に白羽の矢がたった。
最初、前回と同様に3組6人で行く予定だったが、とちゅうで1人が降りたので、今回は5人での旅になった。
ボクは2007年にも香港へ行っているから、まだ香港の街並みも記憶に残っている。
尖沙咀(チィムシャッツィ)が便利だからと、前回は満室だったYMCAに、インターネットで予約を入れる。
そして、航空券もネットでとる。
Eチケットの送付をはじめ、同行者間の連絡も、すべてメールでやり取りできる。
便利になったものだ。
9時50分に成田発の全日空にのる。
まだ暗いうちに家をでて、うすら寒い朝の空気のなか、駅に向かう。
成田エキスプレスは新宿駅では空席があったが、東京駅では満席になっていた。
いつも思うのだけれど、成田空港は設計が悪い。
警備の物々しさはいつものことながら、成田に着いてから、荷物を持っての移動はきわめて不便である。
何段もの階段を上り、分かりにくい道順を、チェックイン・カウンターへと向かう。
設計が古いからと言う理由だけではなく、システムという設計思想に不得手なのだろう。
海外の物件では評判がいいのだから、我が国では設計以外の原因が妨げているのだ。
もちろん、それは役所の縦割り行政であり、認可権を手にした役人たちの介入だろう。
と、年寄りはブツブツと不満を言いつつ、チェックイン・カウンターにならぶ。
ケイタイで連絡を取り合って、居所を確認し、チェックイン・カウンターを出たところで5人集合。
出国手続きにならぶ。
出国カードは廃止されており、パスポートを見せるだけ。
パスポートを調べる役人が、心なしか愛想が良くなった感じである。
ANAのNH909は、定刻に成田を飛び立った。
日本航空の作った笑い顔や、慇懃無礼な接客態度が、もともと大嫌いだった。
外国人、とくに西洋の白人には、ペコペコするくせに、日本人には権威主義的な対応が、日本航空の特色だったように思う。
JALの倒産は、当たり前である。
全日空の接客は、とても自然だった。
たった3時間半のフライト時間だが、満席の乗客たちを滑らかにさばいていた。
ボクたちみたいな酒飲みの要求にも快く応えてくれた。
3人で缶ビール2本、ワイン6本も飲んでも、ふつうの顔をしていた。
特別にサービスするというのでもなく、イヤな顔をするのでもなく、水をもってくるように追加のお酒をくれたのだ。
これはなかなかのサービスではないか。
押しつけでもなく、何げになされるサービスこそ、極上のサービスだと思う。
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良くできた香港空港 |
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午後1時55分、気持ちよく酔っぱらいながら、ボクたちをのせた飛行機は、香港国際空港へと着陸した。
香港も冬なので、ムワッとする熱気はないが、東京に比べれば遙かに暖かい。
20度もあるから、オーバーなど冬の服装が邪魔になる。
パスポートのチェック、通関と何事もなく、ボクたちは入国した。
高速鉄道の切符売り場による。
前回は、クレジットカードでオクトパスが買えたが、今回は現金のみと言われてしまった。
仕方なしに、片道の切符を買う。
成田エキスプレスと違って、この高速鉄道は12分間隔で発車している。
クーラーがきいていて、まるで高級な地下鉄のようだ。
九龍(カオルーン)駅で下車。
シースルーのエレベーターに乗り、着いたところがシャトルバスの発着所。
尖沙咀(チィムシャッツィ)方面のバスは、K3だったが、今回はK2だという。
これは記憶違いかも知れない。
飛行機会社が運営しているらしく、市内のホテルまで無料である。
YMCAホテルは、ペニンスラ・ホテルの隣にある。
シャトルバスは、ペニンスラ・ホテルとYMCAホテルの間の道路に停まる。
バスを降りたところが、YMCAホテルの前というわけだ。
前回も、このあたりでは道路工事をしていたように思うが、今回も道路工事中である。
狭い入り口を通って、YMCAホテルにチェックイン。
ボクたちには、9階に3部屋が与えられた。
ちょっと休憩して、すぐに街へ出る。
今回、ボクは背広を作るつもりできた。
20年前に来たとき、M.K.Looという洋服屋さんで作ったので、その記憶をたどってみた。
当時は、ペニンスラ・ホテルのアーケードに入っていた。
ペニンスラ・ホテルのコンシェルジェにきくと、すでに街の中に移っているという。
電話番号を調べて、電話を入れてくれた。
場所をきいて、M.K.Looの店に行ってみることにした。
ペニンスラ・ホテルから100メートルも離れていない。
交差点の角に建つ古ぼけたビルの、12階に店がある。
アジアの雑居ビルは、いかがわしい感じがプンプンする。
ここも怪しげな雰囲気である。
アジアの雑居ビルには随分と入ってきたので、いかがわしさも余り気にならなくなっている。
小さなエレベーターで12階に着くと、思いのほか明るい廊下である。
エレベーターを降りたら、すぐ右手にM.K.Looの店はあった。
入り口の扉には、大きな透明ガラスが入っており、店内がよく見える。
無窓の扉でなくて、安心した。
店内には、反物がズラッと積み上げられているが、何しろ狭い。
テーブルが1つあるだけで、他には壁際に机がへばりついている。
3メートル×7メートルくらいの小部屋で、1人の男が待っていた。
中年の如才なさそうな男は、Peter Cheung という名刺をだした。
Managing Director と書いてあった。
合い物の背広を作りたいというと、フラノの記事見本をだしてくる。
色は、ミッドナイトブルーの無地。
値段は仕立て上がりで、3、800香港ドルだ、と電卓をはじいて見せた。
月曜日に帰るというと、3月7日には東京に行くから、その時に渡すという。
東京で出稼ぎオーダーを受けているらしく、年に一度東京へ来ており、たまたま東京行きと重なったのだ。
東京ではいくらで受けているのだときくと、4、000香港ドルだという返事である。
それなら3、800香港ドルでは、高いではないか、もっと安くせよと迫る。
「香港人は信義に厚いだろう。この店までわざわざ来たんだぜ、何とかしてくれ」
と訴えるも、なかなか首を縦に振らない。
結局、3、500香港ドルで手を打つことにした。
日本円にして約42、000円である。
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M.K.Looの店の近くで、きれいな街のほうを見る |
採寸を始める。
見本をもってきているから、ホテルに取りに来てくれというと、判ったらしい。
胴回りと胸回りの採寸だけで止めてしまった。
あまりにも簡単な採寸で、大丈夫かと疑う。
見本があるなら、大丈夫だという返事。
ほんとかなー、といささが不安だが、前回の例があるから、まあいいやとカードで支払う。
香港の街中を、香港人の洋服屋をつれて、ホテルまで歩く。
なんだか映画にでてきそうなシーンだ。
この辺に美味い食べ物屋はないかときくと、竹園が美味いという。
ホテルとは反対方向に歩き出す。
店の前まで案内してもらうと、観光客相手のような店構えだった。
この店は感心しないね、高いばかりじゃないか?
ほんとうに香港人かい? とからかう。
あなたはどこで食べるのだと聞くと、このあたりでは食べないらしい。
掛け合い漫才をやりながら、YMCAホテルへと戻る。
彼をロビーに待たせて、部屋から背広をもってくる。
ロビーに戻ってみると、彼は立ったままで、椅子に座っていなかった。
日本人なら座っているだろう。
東南アジアでは、車引きはホテルに入れない。
客が乗っていてもトクトクは、ホテルの敷地内にも入れないのだ。
歴然とした階級差があって、車引きは最下層の人間だから、外国人が泊まる高級ホテルには立ち入り禁止なのだ。
彼が立っていたのは、香港にもそうした風習が残っているのかとも思ったが、思い過ごしであって欲しい。
明日の午後3時に、仮縫いのため、また店に行くことになった。
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