ベイビィ エクスプレス




 オートロック付きの白いマンションが、必ずしも高級住宅を意味するとは限らない。
そして、そこの住人が必ずしも家族持ちとは限らない。

 駅前の商店街から、10分ほど歩いた閑静な住宅地のなかに、ロイヤル・コーポはあった。
506号室には、相馬美紀と山本恵子が一緒に住んで、すでに5年になる。
2人は学校時代の友人だが、これほど性格の違う2人が同居しているのも珍しい。

 ロイヤル・コーポの前に、宅急便が停まった。
506号室のベルがなる。
聞き慣れた配達員の声が聞こえる。
山本恵子は、荷物を受け取って、判を押す。
そして、配達された物を、居間に運ぶ。

「また何か買ったのね。ミキの通販好きにも、困ったものだ」
そういいながら、居間のテーブルの上に、受け取った荷物を置いた。

 ヤマこと山本恵子は、通販には興味がなかった。
というより、買い物には興味がなかった。
着る物もユニクロで充分、そんな女性だった。

 彼女たちの住んでいる506号室は3LDK。
数年前に相馬美紀が、銀行ローンを組んで買ったものだ。
しかし、今の相馬美紀には、ローンを返済する余裕がない。
山本恵子が家賃を払わないと、ローン返済が止まってしまう。
だから、山本恵子はただの居候というわけではない。
つまり2人で共有している、と言ったほうが正確だった。

 女が30半ばを越えると、誘ってくれる男友達もいなくなった。
気がついたときには、2人は取り残されていた。
どちらともなく、一緒に住もうかと言い出して、現在のような形に至っている。

 男と無縁の女が2人で暮らす、こんな気楽なことはなかった。
2人とも収入はあるし、それでいてまだ若いつもりだから、何でもできる。
部屋では下着のままで徘徊してもいいし、休日の朝、いつまで寝ていても、文句をいうものは誰もいない。

 一緒に住み始めた当時は、茶碗から箸まできっちりと分けていたが、いつの間にかそんな区別は消えてしまった。
いまでは石鹸やタオルはおろか、時とすると下着まで共用する有様だった。
もちろん食事だって、交代で作るという規則も、とうの昔に雲散霧消していた。
2人は休日が違うこともあって、一緒に行動することはほとんどない。
それでも何となく生活は上手くまわっている。

 山本恵子は地方公務員で、地域の図書館に勤務している。
彼女の趣味といえば、ボランティア活動である。
活動的な相馬美紀は外出が多く、今夜もアスレチック・ジムへ行って、まだ帰っていない。
この2人が仲良くやっているのだから、まったく不思議である。

次へ