ベイビィ エクスプレス




 それから1ヶ月ほどしたある日、山本恵子が「太陽の園」へ行ったときである。神田が近くへ来て
「あの赤ちゃんね、お父さんが出てきたんだって」
と言った。
「そうなんですか」
「お父さんに引き取られていったって、知らせがあったよ」
「なぜ、あんな事件になったのか分かりましたか」
「旦那さんは単身赴任で、外国へ行っていたらしいんだけれどね、短期の予定が長引いたんだって」
「それで」
「仕事の都合で帰れなかったらしいんだ。国際電話で知らされて、慌てて帰国したんだって。こうなっていたことを知って、信じられないって。すごいショックだったらしいよ」
「そうでしょうね」
「奥さんの遺骨と、赤ちゃんを大事に抱いて帰ったそうだよ」
「そうですか」
「あの赤ちゃんも、ほんとうのお父さんのところへ帰れて良かったね。やっぱり血のつながった親子が一番だからね」
神田はそう言った。

 臨月の妻をおいて、海外へ単身赴任していた男性。
その男性が、1人で子育て出来るだろうか。
小さな子供を抱えて、これからお父さんはどうしていくのだろうか。
そこで育つ子供はどうなるんだろうか。
そう考えると、山本恵子はなんだか心が静まらなかった。

           <了>











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