S:49 |
会社からの帰宅途中、喫茶店に移って、大野陽子と林 哲也・石川直樹。 |
|
|
|
大野陽子 |
実は、車で人をひっかけっちゃったのよ。
でも、何でもなかったからそのまま、分かれたら、翌日死んでいたのよ。 |
林 哲也 |
何で、警察に届けなかったんです。 |
大野陽子 |
だから言ったでしょ、相手の男は何でもなかったって。
元気に歩いてい っちゃったのよ。そしたら、それを見ていた男から電話があって…。 |
石川直樹 |
黙っていてやるから、金をだせって。 |
大野陽子 |
違うのよ。 |
林 哲也 |
(おどけて)お金なら、たくさんあるでしょう。出せばいいのに。 |
大野陽子 |
(むっとして)違うって、言っているでしょ。 |
林 哲也 |
それで相手は、なんて言っているんです? |
大野陽子 |
何も言わずに、電話を切ったわ。また電話をするって。そのうち、また なんか言ってくると思うと、恐くて。 |
石山直樹 |
警察に行ったら。 |
大野陽子 |
なんでもなかったのよ。だって、元気だったのよ。 |
林 哲也 |
でも変だな、元気だった人が簡単に死ぬかな。その人が、本当に死んだ の? 別人じゃないの? |
大野陽子 |
新聞にも出ていたわ。 |
|
|
|
大野陽子、新聞を出す。林 哲也・石山直樹は新聞を読む。 |
|
|
林 哲也 |
この記事に間違いない? ここを通った? |
大野陽子 |
エアロビの帰りに、たしかにそこを通ったわ。昨日も警察が、私を見張っているのよ。職場にもきたわ。 |
林 哲也 |
ほんと、いつ? |
大野陽子 |
ほら今も、あそこに。 |
|
|
|
|
大野陽子、顔を向ける。しかし、それはガードマン。 |
|
|
|
|
石山直樹 |
あれはガードマンだよ。 |
林 哲也 |
でも変だな、判っているなら、なぜ警察は逮捕しないのだろう。 |
大野陽子 |
証拠がないからよ。 |
石山直樹 |
警察が来た? |
大野陽子 |
いえ、まだ、直接は来てないわ。 |
林 哲也 |
ひき逃げなら、警察は直接、事情聴取に来るんじゃない。 |
大野陽子 |
轢き逃げだなんて、大きな声で言わないでよ。でも、いまさら警察には、行けないわ。轢き逃げは、殺人よね。あたし
は殺人犯だわ。 |
林 哲也 |
おかしいな、会社で刑事なんて見たか。 |
石山直樹 |
いや、気がつかなかったけど。 |
|
|
|
大野陽子、おびえ始める。 |
|
|
石山直樹 |
大丈夫、帰れる? |
林 哲也 |
僕が送って行きますよ。石山さん。 |
|
|
S:50 |
雨の中、大野陽子の自宅への道すがら、 |
|
|
林 哲也 |
大野さんが、お金を貸していることと関係あるのかな。 |
大野陽子 |
私はね、かわいそうだと思って貸すのよ。
返せないほど、たくさんは貸さないもの、恨まれる筋合いはないわ。 |
林 哲也 |
昔、お金を貸した人とか? 心当たりはない? |
大野陽子 |
人助けで貸しているのに、恨まれるなんて、困るわ。 |
|
|
|
|
|
洗濯屋の前を通るが、すでにしまっている。 |
|
|
|
|
大野陽子 |
ここまで来れば大丈夫だわ。今夜、考えてみる。ありがとう。 |
|
林 哲也 |
でも家まで行くよ。 |
|
大野陽子 |
だいじょうぶ。ありがとう。もう、あそこだから。 |
|
|
|
大野陽子は、自分のアパートを指さす。立ち話。 |
|
|
林 哲也 |
あまり心配しないで。たぶん、大野さんが轢き殺したんじゃあないよ。 時間が違いすぎるよ。 |
大野陽子 |
私も、そう思うの。ありがとう。ここでいいわ。 |
林 哲也 |
じゃ、ここで。 |
|
|
S:51 |
大野陽子のマンションの共用階段。暗い。階段の電気をつける。 |
|
|
大野陽子 |
誰が消したのかしら。 |
|
|
|
共用通路の向こうで、男の影(森光太郎)が動く。大野陽子は躊躇するが、隣人がきたので、一緒に階段を上る。大野陽子、部屋にはいる。 |
|
|
S:52 |
暗い室内。アクアリウムに男の顔らしきものが映る。しばしの沈黙。
スタンドの電灯がつく。
アクアリウムの魚が、すべて浮いて死んでいる。 |
|
|
大野陽子 |
どうしたのかしら…。嫌だわ、こんなことなかったのに。 |
|
|
S:53 |
森光太郎が去る。雷鳴と稲妻、雨。 |